大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成11年(ワ)2652号 判決 1999年9月30日

原告

金城こと金昌姫

被告

協和テクノロジイズ株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して金七八七万五三六二円及びこれに対する平成九年三月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その四を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、連帯して金四一七五万七四二四円及びこれに対する平成九年三月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が普通乗用自動車を運転中、前方で進路を変更しようとした被告林豊(以下「被告林」という。)運転・被告協和テクノロジイズ株式会社(以下「被告会社」という。)保有の普通貨物自動車を避けようとして、対向車線を走行してきた大型乗用自動車に衝突したと主張して、原告が、被告林に対しては民法七〇九条に基づき、被告会社に対しては自賠法三条に基づき、それぞれ損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実等(証拠により比較的容易に認められる事実を含む)

1  事故の発生

左記事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

日時 平成九年三月二四日午後四時四〇分頃

場所 大阪市西淀川区姫里二丁目二番二七号先路上(以下「本件事故現場」という。)

事故車両一 普通貨物自動車(なにわ四五た二四〇二)(以下「被告車両」という。)

右運転者 被告林

右保有者 被告会社

事故車両二 普通乗用自動車(和泉五二ほ五四八三)(以下「原告車両」という。)

右運転者 原告

事故態様 被告車両が進路を変更しようとしたところ、後方の原告車両が被告車両との衝突を避けようとして、対向車線に飛び出し、対向車である大型乗用自動車(バス)(以下「訴外車両」という。)に衝突した。

2  原告の傷害

原告は、本件事故により、脳挫傷、外傷性動眼神経麻痺の傷害を負い、左記のとおり治療を受け、平成一〇年五月七日に症状固定となり、自賠責保険において後遺障害等級併合七級が認定された。

(一) 入院治療(実日数五四日)

(1) 平成九年三月二四日から同年四月一六日まで大阪市立総合医療センターに入院

(2) 平成九年四月一六日から同年五月一六日まで国立大阪南病院に入院

(二) 通院治療(実通院日数二一日)

平成九年五月一七日から平成一〇年五月七日まで(甲六)

(三) 後遺障害

(1) 症状固定日 平成一〇年五月七日

(2) 後遺障害

原告の後遺障害は、<1>左同名半盲性暗転により九級三号、<2>正面視にて複視を生ずることにより一二級相当であり、これらを併合し、八級に繰り上げられ、これと<3>左上下肢運動麻痺が認められることによる一二級一二号とが併合され、結局併合七級となる。

3  被告会社の責任原因

被告会社は、本件事故当時、被告車両を保有し、これを自己のために運行の用に供していたものである。

4  被告車両の構造上の欠陥・機能障害等

被告車両には、構造上の欠陥または機能の障害はなかった(甲二)。

5  損害の填補

(一) 原告は、本件事故に関し、自賠責保険から一一六三万円の支払を受けた。

(二) 原告は、本件事故に関し、労災保険から療養補償給付として二八七万〇五〇五円の支払を受けた(甲一〇)。

二  争点(一部争いのない事実を含む)

1  本件事故の態様

(原告の主張)

原告車両が北から南に向かい第一車線を走行して本件事故現場付近にさしかかり、前方交差点(以下「本件交差点」という。)の対面信号青色を確認してそのまま進行しようとしたところ、第二車線を北から南に向かって走行していた被告車両が本件交差点手前約一五・八メートル地点で急に方向指示器も出さずに車線変更しようとして、原告車両の直前で被告車両前部を進路上に出して走行を妨害したため、原告は、被告車両との衝突を避けようとしてハンドルを左に切ったところ、左側のガードレールに衝突し、その際ハンドルを右に切ったので、そのまま本件交差点を南から北へ走行中の訴外車両に衝突した。

被告林は、本件交差点手前では車線変更してはならない義務があるにもかかわらず、後方車両の安全を確認することなく急に車線変更したため本件事故が発生したのであるから、被告林には過失がある。

原告車両が時速七〇ないし八〇キロメートルで走行したことはない。本件交差点は、信号機による交通整理が行われているから、道路交通法三八条三項所定の追い抜き禁止の適用はない(また、同条は、横断歩行者保護のための規定である。)。

(被告らの主張)

被告林は、被告車両を運転し、時速四〇ないし五〇キロメートル(制限速度時速四〇キロメートル)で第二車線を走行していたが、約二〇〇メートル前方で同車線が渋滞しているのが見えたので、第一車線に車線変更しようと考え、左後方をサイドミラーで確認したが、原告車両は近くにいなかったので左後方指示器を点滅させて左へ徐々に寄って行って第一車線に〇・四メートル車体が入ったところで、第一車線を後方から時速七〇ないし八〇キロメートルで走行してきている原告車両を発見し、驚いて元の第二車線に戻った。原告は、何をどう判断し運転操作したのかわからないが、被告車両の左側を通過した後、大きく右にカーブして対向車線に飛び出し、対向の訴外車両と衝突した。なお、原告車両は、ガードレールには衝突していない。

本件事故は、前方を注視せず高速度で走行し本件交差点直前であるにもかかわらず被告車両を追い抜こうとした原告の一方的な過失によるものであり、被告林には過失はない。したがって、被告らは責任を負わない。

仮に被告林に若干の過失が認められるとしても、原告の過失の重大さを考慮すれば、八割ないし九割の過失相殺を行うべきである。

2  原告の損害額

(原告の主張)

原告は、本件事故により、脳挫傷、外傷性動眼神経麻痺の傷害を負い、次の損害を被った。

(一) 治療費(療養補償給付分) 二八七万〇五〇五円

(二) 入院雑費 七万〇二〇〇円

(三) 休業損害 二八六万六五五二円

基礎収入(日額) 八三三三円

休業期間 平成九年三月二四日から平成一〇年三月二日まで(三四四日間)

(四) 逸失利益 三四六五万〇六七二円

原告の年齢 症状固定時三〇才

基礎収入(年額) 三〇〇万円

労働能力喪失率 五六パーセント(後遺障害等級併合七級)

新ホフマン係数 二〇・六二五四(三七年間)

(五) 入通院慰謝料 二〇〇万円

(六) 後遺障害慰謝料 一〇〇〇万円

(七) 弁護士費用 三八〇万円

よって、原告は、被告らに対し、連帯して右損害金合計額五六二五万七九二九円から損害の填補分一四五〇万〇五〇五円(自賠責保険金一一六三万円、療養補償給付二八七万〇五〇五円)を控除した四一七五万七四二四円及びこれに対する本件事故日である平成九年三月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うよう求める。

(被告らの主張)

入院雑費は認めるが、その余は争う。

原告の通院期間は長いが、通院実日数はわずか二一日である。約一年も就労不能であったとは考えられない。

原告は、本件事故日からの遅延損害金を求めているので、逸失利益を算定する際には、本件事故時の現価が出るようにホフマン係数を用いるべきである。

入通院慰謝料は一四〇万円が相当である。

後遺障害慰謝料は九五〇万円が相当である。

第三争点に対する判断(一部争いのない事実を含む)

一  争点1について(本件事故の態様)

1  前記争いのない事実、証拠(甲二、被告林本人)及び弁論の全趣旨を総合してみると、次の事実が認められる。

本件事故現場(大阪市西淀川区姫里二丁目二番二七号先路上)は、南北方向に走る道路(以下「本件道路」をいう。)上であり、その付近の概況は別紙図面記載のとおりである。南北道路は、中央分離帯を有する片側二車線の道路であり、その制限速度は時速四〇キロメートルである。本件道路の路面は、平坦なアスファルト舗装であり、本件事故当時は乾燥していた。

被告林は、平成九年三月二四日午後四時四〇分頃、被告車両を運転して、南北道路の南行第二車線を北から南に向けて時速約四〇ないし五〇キロメートルで走行中、第二車線よりも第一車線の方が空いているように見えたので、別紙図面<1>地点で第一車線に車線変更するためサイドミラーで左後方を確認した上、左方向指示器を出し、同図面<2>地点で左ハンドルを切り始め、第一車線に約〇・四メートル入った同図面<3>地点で再びサイドミラーで左後方を確認したところ、後方から直進してきている原告車両(同図面<ア>地点)を発見したので、元の第二車線に戻った。同じ頃、原告は、原告車両を運転し、南北道路の南行第一車線を北から南に向けて時速七〇キロメートル程度で走行していたが、前方で第一車線内に車体の一部を入れてきた被告車両を避けようとして左ハンドルを切りながら被告車両を追い抜きかけたところ、左側ガードレールに衝突しそうになったため、今度は逆に右ハンドルを切り、被告車両を追い抜きながら対向車線に飛び出し、同図面<×>地点で南北道路の北行第一車線を走行してきた訴外車両の右側側面に衝突した(右衝突時における原告車両の位置は同図面<エ>地点、訴外車両の位置は同図面地点である。)。原告車両は、右衝突の結果、右前部フロントグリル・ボンネット等が大破し、車両の異状を検査する諸実験もできなくなった。

以上のとおり認められる。原告は、被告車両が原告車両を追い抜いて急に原告車両の直前で車線変更したものであり、原告車両の速度はさほど出ていないと主張し、本人尋問においてこれと同趣旨の供述をする。しかしながら、原告車両を追い抜いて行ったとする被告車両に原告車両が衝突しそうになって慌てるといった事態は考えにくい上、原告が適切なハンドル操作を行えていないこと、原告車両が大破していることに照らすと、原告の右供述は措信することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  右認定事実によれば、本件事故は、被告林が、第一車線に入る前に十分な後方確認を行わなかったことがその一因となって起きたものであると認められる。他方、原告についてみると、制限速度を大幅に上回る速度で走行し、しかも適切なハンドル操作をしなかったことが本件事故につながったというべきである。そこで、双方の過失内容を対比すると、原告と被告林の過失割合は六対四の関係にあると認めるのが相当である。

二  争点2について(原告の損害額)

1  損害額(過失相殺前)

(一) 治療費(療養補償給付分) 二八七万〇五〇五円

原告は、治療費として二八七万〇五〇五円を要したものと認められる(甲一〇)。

(二) 入院雑費 七万〇二〇〇円

原告は、本件事故による傷病の治療のため、五四日間入院したから(前記争いのない事実等)、一日あたり一三〇〇円として合計七万〇二〇〇円の入院雑費を要したと認められる。

(三) 休業損害 二三八万三三三三円

まず、休業損害算定における基礎収入について判断するに、証拠(甲八、一一1ないし4、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故当時、原告は、「MK計算センター」という屋号で伝票整理等の事務補助を行う外、居酒屋を経営し、また、プチラウンジ「ハクホウ」で経理や料理補助を行っており、月額二五万円の所得があったものと認められる。

前記争いのない事実等によれば、原告は、本件事故日である平成九年三月二四日から同年五月一六日までの五四日間は完全に休業を要する状態であり、同月一七日から平成一〇年三月二日までの二九〇日間は平均して八〇パーセント労働能力が制限される状態であったと認められる。原告が右認定以上に休業を要する状態であったことを認めるに足りる証拠はない。

(計算式) 250,000×54/30+250,000×0.8×290/30=2,383,333(一円未満切捨て)

(四) 逸失利益 三三六三万〇〇七二円

原告(昭和四二年八月二一日生、本件事故当時二九歳)の後遺障害は、自賠責保険に用いられる後遺障害別等級表の併合七級に該当するものであり(前記争いのない事実等、甲六)、右後遺障害の内容に照らすと、原告は、その労働能力の五六パーセントを症状固定時(三〇歳)から三七年間にわたり喪失したものと認められる。

原告の逸失利益算定上の基礎収入は、前(三)のとおり、月額二五万円とするのが相当である。

以上を前提とし、新ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、原告の後遺障害による逸失利益を算出すると、次の計算式のとおりとなる。

(計算式) 250,000×12×0.56×(20.9702-0.9523)=33,630,072

(五) 入通院慰謝料 一五〇万円

原告の被った傷害の程度、治療経過等の事情を考慮すると、入通院慰謝料は一五〇万円が相当である。

(六) 後遺障害慰謝料 九五〇万円

前記のとおり、原告の後遺障害は、自賠責保険に用いられる後遺障害別等級表の併合七級に該当するものであり、原告の右後遺障害の内容及び程度を考慮すると、後遺障害慰謝料は、九五〇万円が相当である。

2  損害額(過失相殺後)

右1に掲げた損害額の合計は四九九五万四一一〇円(積極損害二九四万〇七〇五円、消極損害三六〇一万三四〇五円、慰謝料一一〇〇万円)であるところ、前記の次第で六割の過失相殺を行うと一九九八万一六四四円(積極損害一一七万六二八二円、消極損害一四四〇万五三六二円、慰謝料四四〇万円)となる。

3  損害額(損害の填補分控除後)

原告は、本件交通事故に関し、自賠責保険から一一六三万円、労災保険から療養補償給付として二八七万〇五〇五円の支払を受けているから、療養補償給付を前記過失相殺後の積極損害額から控除すると、積極損害の残額はなくなり、さらに前記過失相殺後の消極損害額及び慰謝料額から自賠責保険からの支払分を控除すると、残額は七一七万五三六二円となる。

4  弁護士費用

本件事故の態様、本件の審理経過、認容額等に照らし、相手方に負担させるべき原告の弁護士費用は七〇万円をもって相当と認める。

5  合計

損害の填補分控除後の残額に弁護士費用を加算すると、七八七万五三六二円となる。

三  結論

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口浩司)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例